紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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「害虫防除の常識」   (目次へ)

.害虫の発生状況の調査法と予測法

 8) 害虫の発生量の予測にはどんな方法があるのか

 これまで害虫の発生時期の予測法ということで、有効積算温度の法則等について述べてきた。今回は、害虫の発生量の予測方法について述べてみたい。発生量の予測法としては、以下の方法があり、その事例を示す(@、A、・・・)。

(1)逐次調査データを取り、同じ世代の平年値、あるいは平年のトレンドと比較する。
@多くのヤガ類などチョウ目害虫のフェロモントラップによる調査データを平年値(平年のトレンド)と比較する。フェロモントラップを設置できない場合には、見取り調査、すくい取り調査等を行う。発生盛期前に今期の発生量の多寡を判断する。
A有効積算温度から害虫の25%、あるいは30%発生時期を予測し、この時期の発生量調査の結果と、平年値あるいは平年のトレンドと比較する。発生盛期前に今期の発生量の多寡を判断する。

(2)逐次調査データを取り、次の世代、あるいは次の発育段階の発生量を予測する。     @フェロモントラップ誘殺数の調査データから、次世代の幼虫発生量を予測する。    Aフェロモントラップ誘殺数から次世代のフェロモントラップ誘殺数を予測する。
Bアワヨトウの糖蜜誘殺数のデータから次世代幼虫の発生量を予測する。

(3)寄主植物の食痕数から成虫等の発生量を直前予測する。
@イネミズゾウムシ成虫が4〜5月に越冬場所で寄主植物の葉を摂食して付けた食痕数の平年値(前年値)と比較し、今期の水田への成虫の侵入量の多寡を判断する。

(4)幼虫等が寄生して発育する餌の量の多寡から成虫の発生量を予測する
@スギ等の球果の量からチャバネアオカメムシの成虫飛来量を予測する。春にスギ花粉の飛散が多い年は、カメムシの幼虫の餌となるスギ、ヒノキの球果も多い。従って、春に花粉飛散量が多いと球果で生育して成虫になったチャバネアオカメムシなどの果樹園への飛来が多いと予測される。

(5)重回帰式(重回帰モデル)を作り、これに数値を入れて予測する。
@ミカンのヤノネカイガラムシの重回帰モデルによる予測
Aマメシンクイガの重回帰モデルによる予測

(6)増殖率、死亡率および発育・増殖と死亡に関係する要因(天敵の寄生率、天候、餌の量等)を入れた計算式(シミュレーションモデル)を作成し、これに数値を入れて予測する。 
@ミカンハダニのシミュレーションモデルによる予測

(7)海外飛来性害虫の飛来予測
@日本で越冬できずに海外から飛来する害虫であるウンカ類(トビイロウンカ、セジロウンカ等)、アワヨトウについては、気象図の前線および低気圧の位置と移動状況、暖かく湿潤な南西風の吹き込み状況から飛来の可能性を予測する。ウンカ類の場合には、飛来が予測された翌日に水田で調査を行い、アワヨトウの場合には糖蜜誘殺数等を調査し、飛来の多寡を確認する。
A海外飛来性害虫のウンカの飛来予測については、シミュレーションモデルがあり、これを用いると日本のどこに飛来した可能性があるのかが分かる。飛来量が多い可能性のある場合には、水田調査を行い、飛来量の多寡を確認する。
B誘蛾灯やネットトラップによりウンカ類の捕殺数を調査し、飛来の多寡を知り、飛来量が多い場合には水田でのウンカ類の成虫密度を調査し、発生密度の高低を知る(実際には、県等の病害虫防除所等で@〜Bを併せて行う)。

(8)夏の高温乾燥の気象からヤガ類の発生の多寡を予測
@オオタバコガ、ハスモンヨトウなどは、夏期が高温乾燥の年には発生が多い傾向にあるので、気象条件を解析して、発生の多寡を判断する。

 この他、害虫の種類によって様々な発生量の予測が行われている。農家としては、身近な県の病害虫防除所ないし農業試験場の発生予察情報をホームページで確認することがまず肝要であり、防除対策に生かしたいものである。

    都道府県の病害虫防除所は、病害虫の発生予察(予測)を行う機関であるが、病害虫の種類が多いのに人員が少ないことから、多様な病害虫の調査データを得ることは難しい状況にあると思われる。このため、これまで研究されてきた発生量の予測手法のうち、気象データを用いて行える部分については、今後、発生量予測のためのコンピューターソフトのパッケージが開発され、これを予測の補助手段として駆使できるようになることが望ましい(なお、一部については、日本植物防疫協会のJPP-NET内のソフトを使用できる(有料))。病害虫防除所では、害虫の発生量が平年よりもかなり多い場合に「注意報」あるいは「警報」を発信している。また、侵入害虫や当該県に未分布の害虫などが発生すると「特殊報」を病害虫防除所のホームページに掲載するとともに関係者に発信している。また、三重県病害虫防除所と奈良県病害虫防除所では、希望者に発生予察情報を電子メールで配信しているので、申し込むとよい。

紀伊半島3県の病害虫情報発信元
三重県:三重県病害虫防除所 http://www.mate.pref.mie.lg.jp/bojyosyo/
奈良県:奈良県病害虫防除所 http://www.jppn.ne.jp/nara/
和歌山県:和歌山県農作物病害虫防除所 http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070300/071400/boujyosyo-yosatsujyouhou.html

 (現在、連載はここまでです。次回をご期待下さい) 
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